マスカット・ハンブルグ・アムレンシス(北醇)

農林水産省の「特産果樹生産動態等調査 」から「ぶどう用途別仕向実績調査-1 加工専用品種別の加工向け利用状況」を見ると、先頭の品種名データが「MHAM」。
北海道で作られていて、収穫量は108トン、そのすべてが醸造用。もっとも、この調査、缶詰用、醸造用、果汁用と分類されてはいるものの、そのほとんどが醸造用で、缶詰はデータに乗ってこないし、果汁(ぶどうジュースかなぁ)も、さほど多くはない。
全数調査ではないから、缶詰もぶどうジュースもないわけではないし、データに乗ってくる以外の地域で作られていないというわけでもないのだけど。

で、その調査の先頭のデータが見慣れない「MHAM」なんじゃこれ?
データは「アコロン」「浅間メルロー」と続くところから、英数字、五十音順という順序に並んでいるのがわかるけれど、上位品種のみ取り扱っている国税庁の調査と異なり、ここに掲載されている品種は67品種にのぼるため、あまり見慣れないぶどう品種も多い。

ちなみに、「加工専用品種別の加工向け利用状況」には、甲州やマスカット・ベーリーA、キャンベルアーリー、コンコードなどのワイン主要品種は掲載されていなくて、こっちは「生食用品種別(加工兼用品種を含む)の加工向け利用状況」のほうに入っている。
こちらには33種のぶどう品種が取り上げられていて、そのうち生食用のみで醸造用に回っていなさそうな(これもデータ上なだけで、厳密ではないとは思う)品種が10種類。つまりは23種。……とはいえ、この10種の中にピオーネが入っているけど、ピオーネのワインって飲んだことあるし、単にデータに乗ってこないだけの可能性もあるんだよね。

加工用(67品種)の統計から、醸造用の数値がない岩手のアムレンシスを除くと66品種、それに生食用の統計から23種を加えれば、日本ワインで使われている品種は、ほぼ90種類にのぼることが判明。
もっとも、これに謎の「ミツオレッド」とか「グリューナー・ヴェルトリーナー」とか「ドルチェット」「マルスラン」「ソラリス」「ジーガレーベ」など、日本各地で限定的に栽培されている外国産の地域品種や交配品種を加えると、やっぱ100種は超えるよなぁ。

で、前置きばかりになりましたが、問題の「MHAM」。
北海道であるということから推理して、一度、ブレンドとして遭遇したことがあり、その時、ざっと調べてみた「マスカット・ハンブルグ・アムレンシス」だと特定しました。どうやら、北海道の鶴沼ワイナリーでは、平成20年代から地域の特色ある品種とするべく、このMHAMの導入を始めたみたい。ぶどうジュースも当初は考えられてたようだけれど、平成2年のデータでは果汁の利用がありません。最近、よく見かけるのは北海道ワインでロンドやキャンベルアーリーとブレンドされたもの。108トンというと、決して少なくない量なので、表に出なくてもブレンド用でたくさん使われているものと思われます。って、どうして国税庁のデータには出てこないんだろう?

出自は、中国北京の中国科学学院植物研究所。1930年代から中国で栽培されていたマスカット・ハンブルグ(メイクシャン:玖塊香)に、華北・山東・東北三省に原生していた山葡萄(アムレンシス)をかけ合わせてできた品種だそう。アムレンシスの語源は「アムール川」。中国とロシアの国境付近にありますが、この地域、相当な極寒の地。そこで自生するヤマブドウですから、耐寒性ばっちりということでしょう。ヤマブドウらしく、しっかりした着色も期待できます。(参考:つきほし果樹のサイトより)
日本では、北醇(ほくじゅん)という別名がつけられていたりします。J-STAGEに1983年の植原宣紘氏の論文(日本釀造協會雜誌)が掲載されているのだけれど、そこに北醇についての記載があります。(ほかにも興味深い内容がいっぱい)

農林水産省のデータ上には北海道しか出てこなかったのですが、WEBで探っていくと、山形県のつきほし果樹では北醇という名前で生食用やジュースが、Yellow Magic Wineryでは北醇のワインが作られているようです。福島県の田村市(滝根)でも作られていて、ふるさと納税の返礼品などになってます。

味や香りについては、まだブレンドでしか飲んだことがないので、なんとも言えないのだけれど、なんとなくマスカット・ハンブルグのテイスト(マスカットの香りとか)が強いんじゃないかなという感じはします(同じくマスカットハンブルグの親を持つマスカットベーリーAに通じるものがあるような)。ヤマブドウの特徴である濃い赤紫色もある気がします。